ザポリッジャ原発、「原子力事故を辛うじて回避」とゼレンスキー氏 送電が一時遮断 

Image shows nuclear plant

画像提供, Reuters

画像説明,

ロシア軍が占拠するウクライナ南東部のザポリッジャ原発(22日)

ウクライナのウォロディミル・ゼレンスキー大統領は25日、ロシアが占拠するザポリッジャ原子力発電所がウクライナの電力網から一時切り離されたため、欧州が放射線災害の危機に直面したと述べた。そして、原発を安全に稼働させることができたのは、バックアップ電源があったからだと付け加えた。

ウクライナ南東部にある欧州最大のザポリッジャ原発ではこの日、近くで起きた火災の影響で送電線が損傷し、電力系統が遮断された。

ゼレンスキー大統領は、火災はロシア軍の砲撃で起きたものと非難している。他方、ロシアが選んだ現地の知事は、ウクライナ軍のせいだと反論している。

ゼレンスキー氏は25日夜、「ディーゼル発電機が作動していなければ、そして停電後に自動制御装置が反応し、我々の原発スタッフが反応していなければ、今頃は放射線事故への対応を迫られていたはずだ」と警告を発した。

ウクライナ原子力発電公社エネルゴアトムは、火災の影響で原発につながる送電線が一時的に国内の電力網から切り離されたと説明した。このようなことは、史上初めてという。

「その結果、原発の発電ユニット2基が電力網から切り離された」と、エネルゴアトムは声明で述べた。

国際原子力機関(IAEA)は、「原発施設外の電力網から安定した電源」を確保することが「原子力の安全を維持する上で不可欠」だと警告した。

ザポリッジャ原発周辺では戦闘が続いており、懸念が高まっている。

<関連記事>

ウクライナとロシアが互いを非難

衛星画像からは、原発のすぐ近くで、炎が広範囲に広がっているのが分かる。

ゼレンスキー氏は、火災はロシア軍の砲撃によるものだと説明。ロシア政府が、大惨事まで「あと一歩」のところまでウクライナと欧州を追い込んでいると非難した。

しかし、ロシア政府に任命されてザポリッジャ州のロシア占領地を統括するエフゲニー・バリツキー氏は、ウクライナ軍の攻撃により同地域で停電が起きたと非難した

ロシアとウクライナのどちらに責任があるのかは、BBCは独自に検証できていない。

放射線レベルに変化なしと

ザポリッジャ原発は25日に主電源を一時喪失したが、近隣の放射線レベルは通常通りのままだと、地元当局は報告している。

IAEAは声明でエネルゴアトムを引用し、「近くの火力発電施設からの330キロボルト送電線に(原発は)引き続き接続されている。この送電線を通じて、必要に応じてバックアップ電力を供給できる」と説明した。

また、25日中に送電線が復旧したにも関わらず、原子炉6基すべてが送電網から切り離されたままだと付け加えた。

ザポリッジャ原発は通常、ウクライナ国内の総電力の5分の1を供給している。送電網からの切断が続けば、ウクライナにとって深刻な問題が生じることになる。

ロシア軍は同原発を3月初旬から占拠しているが、ウクライナ側の原子力技術者によって稼働が続けられている。

ロシア政府はIAEAによるザポリッジャ原発視察を認める意向を示しているが、それが実現するまでは現場で何が起きているのかを検証することは難しい。

「ザポリッジャ原発周辺では、ほぼ毎日新たな事故が起きている。我々はこれ以上、時間を失うわけにはいかない」と、IAEAのラファエル・グロッシ事務局長は声明を発表。国際視察団の原発訪問を数日以内の実現するよう、繰り返し呼びかけた。

エネルギーの専門家たちは、原発が全電源を喪失した場合、原発の安全装置が機能しなくなる恐れがあると、懸念を示している。

原発とロシアの送電網の接続を計画か

ザポリッジャ原発をめぐっては、ロシアがウクライナの送電網から同原発を切り離し、最終的にロシア側の送電網に接続しようとしていると、ウクライナ政府は主張している。

ロシア占領下のウクライナの近隣の町や村では25日、停電が発生したと複数メディアが報じた。

原発に隣接するエネルホダルの市長は25日、街には電力も水も全く通っていないと訴えた。ロシア占領下のメリトポリやヘルソンでも停電が発生したと報じられた。

米政府当局者は、ザポリッジャ原発で発電された電力をウクライナの送電網から切り離そうとするモスクワの動きを非難した。

米国務省のヴェダント・パテル副報道官は25日夜、「発電した電力は当然ウクライナのものだ」とし、「いかなる国も、原子力発電所を交戦地帯にしてはならない」と付け加えた。